経理として働いていると、「このまま経験を積めば市場価値は上がるのか」「転職で評価される経験は何か」と考えることがあります。
経理の市場価値は、資格の数や経験年数だけで決まるものではありません。企業から見て、どの範囲の業務を任せられるのか、どのような課題を解決できるのか、周囲を巻き込みながら成果を出せるのかによって評価は変わります。
この記事では、経理の市場価値を次の流れで整理します。
- 市場価値の定義
- 評価される経験・スキル
- 年代別の伸ばし方
- 市場価値を高める具体的な行動
経理における市場価値の定義
経理の市場価値とは、企業から見たときに「どのような業務を、どの程度の責任を持って任せられるか」を示すものです。
例えば、決められた仕訳を入力できる人と、月次決算のスケジュールを管理し、関係部署から情報を集め、数値を分析して経営層へ報告できる人では、担当できる仕事の範囲が異なります。
市場価値を判断するときは、次のような点が見られます。
- どの業務を経験しているか
- 担当業務をどこまで完結できるか
- どの程度の規模や複雑さに対応できるか
- 業務改善や課題解決に取り組めるか
- 他部署や外部関係者と調整できるか
- チームをまとめられるか
- 数字を事業や経営の判断につなげられるか
したがって、「経理を何年経験したか」だけでは、市場価値を十分に説明できません。
重要なのは、経験年数に応じて担当範囲と責任を広げ、具体的な成果として説明できる状態をつくることです。
市場価値を構成する4つの視点
経理の市場価値は、主に次の4つの視点から考えられます。
1. 専門性
決算、連結、開示、税務、管理会計、財務など、特定領域の知識と実務経験です。
2. 業務遂行力
担当業務を正確に処理するだけでなく、スケジュール管理や関係者との調整を含めて、業務を最後まで完結させる力です。
3. 改善・推進力
業務フローの見直し、システム導入、決算早期化など、現状をより良くするために課題を整理し、周囲を巻き込みながら実行する力です。
4. 組織・事業への貢献力
メンバーの育成やチーム管理に加え、数字を事業の状況や経営判断と結びつけて考える力です。
この4つをバランスよく伸ばすことで、単なる処理担当者から、専門性を持って業務や組織を動かせる人材へ成長できます。
評価されやすい経理の経験
決算を一連の流れで担当した経験
経理の基礎となるのが月次・年次決算です。
評価されやすいのは、個別の仕訳や勘定科目だけでなく、決算全体の流れを理解している経験です。
例えば、次のような業務があります。
- 月次・年次決算
- 決算整理仕訳
- 財務諸表の作成
- 決算スケジュールの管理
- 各部署からの情報収集
- 監査法人への説明
- 決算数値の分析と報告
担当範囲が広がるほど、業務全体を見ながら優先順位をつける力が身につきます。
連結決算・開示の経験
上場企業やグループ会社を持つ企業では、連結決算や開示の経験が評価されることがあります。
連結決算では、次のような業務を担当します。
- 子会社からの決算情報の収集
- 連結パッケージの確認
- 債権債務の消去
- グループ内取引の消去
- 未実現利益の消去
- 連結財務諸表の作成
開示では、決算短信、有価証券報告書、半期報告書などの作成に関わります。
これらの経験を通じて、個別の会計処理だけでなく、企業グループ全体の数値を整理し、外部へ説明する力を身につけられます。
税務・会計論点への対応経験
税務や会計基準に関する論点を整理し、社内外の関係者と対応した経験も専門性につながります。
例えば、次のような業務です。
- 法人税・消費税
- 税効果会計
- 税務調査対応
- 収益認識
- 固定資産
- 減損
- 会計方針の整理
- 監査法人との協議
単に知識があるだけでなく、取引内容を確認し、論点を整理し、処理方針を決めて実務へ反映した経験が重要です。
管理会計・FP&Aの経験
経理から経営に近い領域へ広げたい場合は、管理会計やFP&Aの経験が役立ちます。
代表的な業務は次のとおりです。
- 予算策定
- 予実分析
- 業績予測
- KPI管理
- 原価分析
- 部門別採算管理
- 経営会議資料の作成
財務会計が過去の実績を正確に記録・報告する仕事であるのに対し、管理会計やFP&Aでは、数字をもとに今後の方針を考えます。
「売上が増えた」という事実だけでなく、商品別・顧客別・部門別の要因を分析し、利益やキャッシュへの影響まで説明できると、経営支援に近い役割を担いやすくなります。
財務・資金管理の経験
経理と財務の両方を経験すると、損益だけでなくキャッシュの流れも理解できます。
財務領域では、次のような業務があります。
- 資金繰り
- 銀行対応
- 資金調達
- キャッシュマネジメント
- 投資判断
- 借入金管理
経理で作成した数値を、資金繰りや調達計画にどうつなげるかを考えられる点が、財務経験の強みです。
業務改善・システム導入の経験
業務改善やシステム導入では、会計知識に加えて、課題を整理し、関係者を動かし、仕組みを定着させる力が求められます。
例えば、次のようなテーマがあります。
- 決算早期化
- 経費精算の効率化
- 会計システムの導入
- ERPの刷新
- Excel作業の削減
- 業務フローの標準化
- 内部統制の整備
評価されるのは、プロジェクトに参加した事実だけではありません。
「どのような課題に対して、何を変え、どのような成果が出たのか」を説明できることが重要です。
M&A・PMIの経験
M&AやPMIでは、通常の決算とは異なる課題に対応します。
- 財務デューデリジェンスへの対応
- 買収後の会計処理
- 子会社化に伴う決算体制の整備
- 会計方針の統一
- システムや業務フローの統合
- 管理体制の構築
会計知識だけでなく、プロジェクト管理、関係者調整、変化への対応力も求められるため、経理の業務領域を広げやすい経験です。
海外業務の経験
海外子会社とのやり取り、海外拠点の管理、英語での資料作成、国際会計基準への対応なども、企業によっては評価されます。
特に、英語力だけでなく、海外拠点から情報を集め、会計方針をすり合わせ、連結決算や業績管理に反映した経験があると、実務能力として説明しやすくなります。
評価されるスキル
会計・税務の専門知識
簿記の基礎に加えて、実務経験に応じて次の分野へ知識を広げます。
- 連結会計
- 税効果会計
- 収益認識
- 固定資産
- 税務
- 開示
- 内部統制
- 国際会計
資格で得た知識を実務で使い、処理方針の判断や関係者への説明までできると、専門性として評価されやすくなります。
Excel・会計システムの活用力
経理では、データを正確かつ効率的に扱う力が欠かせません。
- 関数
- ピボットテーブル
- データ加工
- 集計・分析
- 会計システムとのデータ連携
- ERPや連結決算システムの利用
単に操作できるだけでなく、手作業を減らし、ミスを防ぎ、業務を標準化する視点が重要です。
分析力
経理の市場価値を高めるには、数字を作る力に加えて、数字を読む力が必要です。
例えば、売上や利益の増減について、
- どの商品や顧客が影響したのか
- 数量と単価のどちらが要因なのか
- 一時的な変動なのか
- 利益率やキャッシュにどう影響したのか
- 今後どのような対応が必要なのか
まで考えられると、経営や事業部門への貢献度が高まります。
コミュニケーション力
経理は、営業、購買、人事、システム部門、事業部門、子会社、経営層、監査法人など、多くの関係者と連携します。
そのため、会計知識を一方的に伝えるのではなく、相手の立場に合わせて説明し、必要な情報を期限内に集める力が必要です。
プロジェクト推進力
業務改善やシステム導入では、次のような力が求められます。
- 課題の整理
- 目標設定
- スケジュール管理
- タスク管理
- リスク管理
- 関係者との調整
- 進捗確認
- 新しい業務の定着
これらは経理以外のプロジェクトでも活用できる汎用性の高いスキルです。
マネジメント力
管理職を目指す場合は、自分の業務を処理する力から、チームとして成果を出す力へ役割を広げる必要があります。
- 業務の割り振り
- 進捗管理
- レビュー
- メンバー育成
- 評価
- 業務改善
- 上司や他部署との調整
役職がなくても、後輩の指導や小規模なチームの取りまとめを経験しておくと、将来のマネジメントにつながります。
年代別に見る市場価値の伸ばし方
年齢だけで市場価値が決まるわけではありませんが、年代によって期待される役割は変わります。
20代:基礎を固めて担当範囲を広げる
20代では、経理の基本業務を正確に処理できる力を身につけることが優先です。
まずは次の業務を経験します。
- 仕訳
- 月次決算
- 年次決算
- 債権・債務管理
- 固定資産管理
- Excel
- 会計システム
基礎が身についたら、連結、開示、税務、管理会計など、次に伸ばしたい領域を一つ選びます。
この時期は、資格取得だけに偏るよりも、実務で担当できる範囲を増やすことが重要です。
30代:専門性と自走力を高める
30代では、担当者として業務を処理するだけでなく、主担当として業務を完結させることが期待されます。
例えば、
- 決算全体の進行管理
- 連結・開示・税務などの専門業務
- 業務改善の推進
- メンバーの育成
- 管理会計やFP&A
- 財務や経営企画との連携
などです。
「経理経験があります」ではなく、「年次決算を主担当として進めた」「決算早期化を実現した」「予実分析をもとに事業部へ改善提案をした」のように、担当範囲と成果を説明できる状態を目指します。
40代以降:組織や経営への貢献を広げる
40代以降では、専門性に加えて、組織全体への影響力が重視されます。
- 経理部門のマネジメント
- 決算体制の構築
- 業務改革
- M&A・PMI
- 経営管理
- FP&A
- 経営企画
- 資金調達
- CFO候補としての経営支援
専門職として特定領域を深める道もありますが、管理職や経営に近い役割を目指す場合は、会計以外の領域にも経験を広げる必要があります。
資格は市場価値をどう補強するか
資格は市場価値を高める手段の一つですが、資格だけで評価が決まるわけではありません。
重要なのは、目指す仕事に必要な知識を資格で補い、その知識を実務経験と結びつけることです。
日商簿記検定
経理の基礎を体系的に学ぶ資格です。
未経験者にとっては会計の基本を理解する入口となり、実務経験者にとっては知識を整理する機会になります。
USCPA
海外子会社管理、外資系企業、国際会計などを目指す場合に関連する資格です。
英語を使った実務、連結決算、海外拠点との調整経験と組み合わせることで、より実務的な強みになります。
公認会計士・税理士
会計・監査や税務を専門領域として深めたい場合に検討される資格です。
ただし、取得には大きな時間と労力が必要なため、将来のキャリアと必要性を考えて判断することが大切です。
資格を選ぶときは、次の順番で考えるとよいでしょう。
目指す仕事 → 必要な知識 → 必要な実務経験 → 資格の必要性
市場価値を高める具体的な行動
1. 現在の業務を棚卸しする
まず、担当している業務を書き出します。
- 月次・年次決算
- 連結決算
- 開示
- 税務
- 予算・予実管理
- 資金繰り
- システム導入
- 業務改善
- メンバー育成
そのうえで、「補助として関わった業務」と「主担当として完結できる業務」を分けます。
2. 次に伸ばす領域を一つ決める
すべてを同時に経験する必要はありません。
例えば、
- 決算の理解が浅いなら、月次・年次決算の全体像を学ぶ
- 決算経験があるなら、連結や開示に挑戦する
- 会計処理が中心なら、予実分析や管理会計を経験する
- 実務はできるが改善経験がないなら、業務効率化に取り組む
- 将来管理職を目指すなら、後輩指導や業務分担を担当する
というように、現在の不足を一つずつ埋めていきます。
3. 社内で新しい仕事を取りに行く
市場価値を高めるために、すぐ転職する必要はありません。
上司との面談や業務分担の機会に、次のような希望を伝えてみましょう。
- 決算全体の流れを経験したい
- 連結決算の一部を担当したい
- 予実分析に関わりたい
- システム導入のプロジェクトに参加したい
- 後輩の指導を担当したい
現在の会社で経験できる仕事を増やすことも、キャリア形成の有効な方法です。
4. 業務改善を成果として残す
業務改善に取り組んだら、次の内容を記録します。
- どのような課題があったか
- 原因は何だったか
- 何を変更したか
- 誰と協力したか
- どの程度の効果が出たか
例えば、「経費精算を改善した」ではなく、「申請フローを見直し、確認工数を月20時間削減した」のように整理します。
5. 数字を使って成果を説明する
転職や社内評価では、経験を具体的に説明できることが重要です。
次の要素を整理しておくと、職務経歴書や面接で伝えやすくなります。
- 対象となった業務
- 会社やチームの規模
- 自分の役割
- 関係者の人数
- 課題
- 実施したこと
- 成果
成果は、処理時間、ミス件数、決算日数、コスト、対応件数など、可能な範囲で数値化します。
6. 資格や学習を実務に結びつける
資格の勉強をする場合は、学んだ内容を現在の業務と結びつけます。
例えば、簿記や会計基準を学んだら、実際の決算処理や監査対応でどのように使われているかを確認します。
資格取得だけを目的にせず、実務で説明・判断・改善に使える知識として身につけることが大切です。
7. 定期的にキャリアを見直す
半年から1年に一度、次の項目を確認します。
- 新しくできるようになった業務
- 主担当として完結できる範囲
- 身についた専門知識
- 改善した業務
- 周囲を巻き込んだ経験
- 次に不足している経験
この振り返りを続けることで、経験が積み上がっているかを確認できます。
よくある質問
経理は資格がないと市場価値が低いですか?
資格がなくても、実務経験と成果があれば市場価値を高められます。
資格は知識を証明したり、学習の方向性を定めたりする手段です。決算、連結、開示、税務、管理会計、業務改善などの経験と組み合わせることで、より効果を発揮します。
経理は何年経験すれば市場価値が上がりますか?
経験年数だけでは判断できません。
同じ5年間でも、仕訳だけを担当した場合と、決算全体、連結、開示、業務改善、マネジメントを経験した場合では、担当できる仕事の範囲が異なります。
年数ではなく、経験の幅、深さ、責任範囲、成果で考えることが重要です。
市場価値を高めるために転職したほうがよいですか?
必ずしも転職が必要なわけではありません。
現在の会社で担当範囲を広げたり、プロジェクトに参加したり、後輩指導を経験したりすることでも、市場価値は高められます。
ただし、社内で希望する経験を得ることが難しい場合は、転職によって環境を変える方法もあります。
経理から管理職になるには何が必要ですか?
会計知識に加えて、業務の割り振り、進捗管理、レビュー、育成、他部署との調整などの経験が必要です。
まずは後輩の指導や小規模な業務の取りまとめから始め、チームとして成果を出す経験を増やしていくとよいでしょう。
経理からCFOを目指すには何が必要ですか?
企業によって異なりますが、経理だけでなく、財務、管理会計、FP&A、経営企画、M&A、資金調達、組織マネジメントなどの経験が求められることがあります。
会計数値を正確に作る力に加えて、事業や経営の意思決定を支援する力を身につけることが重要です。
まとめ|市場価値は経験を選び、成果として残すことで高まる
経理の市場価値は、資格や経験年数だけで決まるものではありません。
企業から見て、どの業務をどこまで任せられるのか、どのような課題を解決できるのか、チームや経営にどのような貢献ができるのかによって評価されます。
市場価値を高めるには、次の順番で考えると整理しやすくなります。
- 現在できる業務を棚卸しする
- 次に伸ばす領域を決める
- 社内で新しい経験を取りに行く
- 業務改善やプロジェクトに関わる
- 成果を数値で記録する
- 必要な知識を資格や学習で補う
- 定期的にキャリアを見直す
20代では基礎と担当範囲、30代では専門性と自走力、40代以降では組織や経営への貢献を意識すると、年代に応じた成長を考えやすくなります。
市場価値を高める第一歩は、資格を増やすことだけではありません。
今の仕事を棚卸しし、次に必要な経験を選び、その成果を説明できる形で残すこと。
この積み重ねが、経理としての市場価値を高め、将来の転職やキャリアの選択肢を広げます。
