「経理経験が5年あります」「月次決算を担当しています」「連結決算の経験があります」。
経理の転職では、このように経験した業務を伝えることが多くあります。
しかし、業務名や経験年数だけでは、実際にどのような仕事を担ってきたのかは分かりません。
例えば、同じ「月次決算経験者」でも、決められた仕訳を入力している人と、決算全体の進捗を管理し、差異の原因を分析して関係部署と調整している人では、担当範囲や求められる能力が異なります。
経理のキャリアを考えるときは、「何を経験したか」だけでなく、「その仕事をどこまで担ったか」を見ることが重要です。
この記事では、経理の仕事の深さを次の5つのレベルに分け、各レベルの役割と、連結決算・固定資産管理・開示業務における具体例を対応させながら解説します。
経理の「仕事の深さ」とは?
業務名だけでは担当範囲は分からない
経理には、仕訳、月次決算、固定資産、連結決算、開示、管理会計など、さまざまな業務があります。
ただし、「月次決算を担当した」「連結決算を経験した」といった業務名だけでは、どの程度の仕事を担っていたのかは判断できません。
例えば、月次決算には次のような段階があります。
- 指示された仕訳を入力する
- 担当科目の残高を確認する
- 必要な資料を集めて決算資料を作成する
- 前月・前年・予算との差異を分析する
- 関係部署に確認して差異の原因を特定する
- 決算全体の進捗を管理する
このように、同じ業務でも担当範囲が広がるほど、必要な知識や判断力、関係者との調整力は変わります。
5つのレベルで仕事の深さを整理する
経理の仕事は、次の5段階で整理できます。
| レベル | 仕事の深さ | 主な役割 |
| レベル1 | 処理する | 決められたルールや手順に沿って、定型業務を正確に処理する |
| レベル2 | 担当する | 一定の業務について、準備から報告まで一貫して担う |
| レベル3 | 分析する | 数字の変化や差異の原因を調べ、事業の状況と結びつけて説明する |
| レベル4 | 判断・改善する | 非定型の会計論点に対応し、業務や仕組みを改善する |
| レベル5 | 組織を動かす | チームや経理部門全体を統括し、関係者と連携して成果を出す |
この5段階は、経理担当者を一律に序列化するものではありません。
専門領域を深く追求する働き方もあれば、複数の業務を経験して管理職や経営に近づいていく働き方もあります。
また、どの経験が評価されるかは、企業や求人によって異なります。
重要なのは、自分が現在どのレベルの仕事を担っているのかを把握し、希望するキャリアに必要な経験との差を確認することです。
レベル1:決められた業務を正確に「処理する」
レベル1は、決められたルールや手順に沿って、定型業務を正確かつ期限内に処理する段階です。
主な業務
- 仕訳入力
- 入出金管理
- 売掛金・買掛金管理
- 固定資産登録
- 請求書の確認
- 月次資料の作成
- 各種データの集計
この段階では、処理方法や必要な証憑を理解し、ミスや確認漏れを防ぎながら業務を完了させることが求められます。
正確な処理は、その後の決算、分析、判断の土台になります。したがって、レベル1は経理の基本を身につける重要な段階です。
具体例
連結決算
- 子会社から提出されたデータをシステムへ入力する
- 指示された連結仕訳を登録する
- 連結資料の数値を更新する
固定資産管理
- 取得した資産を登録する
- 資産の分類や耐用年数を確認する
- 減価償却費を計上する
開示業務
- 決められた資料へ数値を入力する
- 前回資料から変更された箇所を更新する
- 開示用データを集計する
レベル1では、決められた処理を正確に行うことが中心です。処理の背景や数字の変化まで自分で分析することは、必ずしも主な役割ではありません。
レベル2:担当領域を「一貫して担う」
レベル2では、単発の作業ではなく、一定の業務について、準備から報告まで一貫して担います。
主な役割
- 必要な資料や情報を自分で把握する
- 関係部署へ資料を依頼する
- 担当する仕訳や集計を行う
- 残高や処理結果を確認する
- スケジュールを調整する
- 不明点を関係者へ確認する
- 成果物を作成して報告する
レベル1との違いは、個々の作業を正確に行うだけでなく、業務全体の流れを把握し、必要な作業を自ら進める点にあります。
自分の担当業務について、前工程と後工程を理解していることも重要です。
例えば売上計上であれば、営業活動、契約、受注、納品、検収、請求、入金、売上計上という流れを把握することで、資料不足や処理の異常に気づきやすくなります。
具体例
連結決算
- 担当子会社へ必要な資料を依頼する
- 提出データを確認する
- 担当子会社の連結処理を一通り行う
- 不備や不明点を子会社へ確認する
- 担当範囲の結果を上司へ報告する
固定資産管理
- 固定資産の取得から除却までの情報を管理する
- 関係部署から設備投資の情報を集める
- 登録、減価償却、除却処理を行う
- 固定資産台帳と会計データを照合する
開示業務
- 担当する開示資料の作成スケジュールを調整する
- 関係部署から必要な情報を集める
- 担当資料を作成する
- 数値や記載内容を確認し、期限内に提出する
レベル2では、「作業ができる人」から「担当業務を任せられる人」へ役割が変わります。
レベル3:数字を「分析する」
レベル3では、処理した数字を集計するだけでなく、数字の変化や差異の理由を調べ、事業の状況と結びつけて説明します。
主な役割
例えば、予算1億円に対して売上実績が9,000万円だった場合、「予算より1,000万円少ない」と報告するだけなら集計です。
レベル3では、次のような要因を確認します。
- 販売数量の減少
- 販売単価の低下
- 商品構成の変化
- 大型案件の計上時期のずれ
- 一時的な取引の発生・消滅
- 市況の変化
- 予算策定時の前提と実態のずれ
そして、「主要顧客の案件が翌月にずれたことが主な要因で、一時的な影響と考えています」のように、数字の変化を説明します。
具体例
連結決算
- 前年同期と比べて増減した子会社を特定する
- 売上や利益の変動要因を確認する
- 為替、取引量、子会社の業績などを分析する
- 異常値や想定外の変動について原因を確認する
- 分析結果を上司や関係部署へ説明する
固定資産管理
- 設備投資額の増減を分析する
- 減価償却費が予算と異なる理由を確認する
- 大型投資の実施時期や稼働状況を確認する
- 資産の増加が利益やキャッシュ・フローに与える影響を説明する
開示業務
- 前年同期と比べた数値の変動を分析する
- 財務諸表と開示資料の数値が一致しているか確認する
- 数値の変動理由と記載内容が整合しているか確認する
- 投資家や外部関係者に誤解を与える表現がないか検討する
レベル3では、経理は「数字を作る部署」から「数字を読み解き、説明する部署」へ役割を広げます。
レベル4:会計・業務上の「判断と改善」を担う
レベル4では、過去と同じ処理を繰り返すだけでなく、非定型の取引や会計論点に対応し、業務そのものを改善します。
非定型の会計論点に対応する
次のような案件では、既存の処理方法をそのまま適用できない場合があります。
- 新規事業
- 新しい契約
- M&A
- 組織再編
- 大型の設備投資
- 特殊な取引
- 海外取引
この段階では、取引の実態や契約内容を確認し、関係する会計基準や社内方針を調べ、関係部署や監査法人などと協議しながら処理方法を検討します。
重要なのは、会計基準を知っていることだけではありません。実際の取引に基準を適用し、論点を整理して、関係者に説明できることが求められます。
業務や仕組みを改善する
レベル4では、現在の業務を正確に行うだけでなく、「この方法を続ける必要があるのか」と考えます。
- 手作業をシステム化する
- Excel作業を自動化する
- 決算スケジュールを見直す
- 重複したチェックを整理する
- 内部統制を改善する
- 業務フローを変更する
改善の目的は、作業時間の短縮だけではありません。ミスの削減、属人化の解消、内部統制の強化、決算品質の向上まで考える必要があります。
具体例
連結決算
- 複雑な組織再編や子会社取得に関する連結論点を検討する
- 新しい連結取引に対する処理方法を整理する
- 連結パッケージや報告フローを見直す
- 手作業の集計をシステム化する
- 子会社間のデータ提出ルールを改善する
固定資産管理
- 大型設備投資の会計処理を検討する
- 資産計上と費用処理の判断を行う
- 減損や除却に関する論点を整理する
- 投資申請から資産登録までの業務フローを改善する
- 固定資産台帳と現物管理の方法を見直す
開示業務
- 新しい開示項目への対応方法を検討する
- 非定型の取引について開示内容を整理する
- 関係部署や監査法人と記載内容を協議する
- 開示資料の作成手順やチェック体制を改善する
- 決算日程を見直し、開示までの工程を短縮する
レベル4では、「処理する人」から「会計上の論点を判断し、仕組みを変える人」へ役割が広がります。
レベル5:経理全体・組織を「動かす」
レベル5では、自分の担当業務を超えて、チームや経理部門全体の成果を考えます。
主な役割
- 決算全体のスケジュールを管理する
- 各担当者の進捗や業務品質を確認する
- 業務を分担し、必要な人員を配置する
- 成果物をレビューする
- メンバーを教育する
- 他部署や経営陣と合意形成する
- 経理部門全体の業務体制を整備する
レベル4が個別の論点や業務フローを改善する段階だとすれば、レベル5は複数の業務や関係者を含めて、組織として成果を出す段階です。
「自分ができる」だけでなく、「他の人が適切に処理できる状態を作る」ことが求められます。
具体例
連結決算
- 連結決算全体のスケジュールを管理する
- 各子会社や担当者の進捗を確認する
- 連結数値や注記の品質をレビューする
- 監査法人や子会社と論点を調整する
- 連結決算の体制や役割分担を整備する
固定資産管理
- 固定資産管理全体のルールを整備する
- 設備投資、経理、事業部門、経営企画の情報連携を調整する
- 大型投資の進捗や会計上の影響を経営陣へ報告する
- 固定資産管理の担当者を育成する
- 投資管理と経営管理を連携させる
開示業務
- 決算開示全体のスケジュールを管理する
- 経理、法務、経営企画、IR、監査法人などの調整を行う
- 開示資料全体の品質をレビューする
- 経営陣への報告や説明を支援する
- 開示業務の体制やチェックプロセスを整備する
レベル5では、個人の処理能力だけでなく、チームとして安定して成果を出す仕組みを作ることが重要になります。
3つの業務で見る「仕事の深さ」の違い
ここまでの内容を、連結決算、固定資産管理、開示業務に当てはめると、次のように整理できます。
連結決算の場合
| レベル | 連結決算での仕事 |
| レベル1 | データ入力や資料作成を行う |
| レベル2 | 担当子会社の連結処理を一通り行う |
| レベル3 | 前年比較や差異分析を行い、異常値の原因を確認する |
| レベル4 | 複雑な連結論点を検討し、処理方法や業務フローを改善する |
| レベル5 | 連結決算全体の進捗・品質を管理し、レビューや関係者との調整を行う |
固定資産管理の場合
| レベル | 固定資産管理での仕事 |
| レベル1 | 取得した資産の登録や減価償却処理を行う |
| レベル2 | 固定資産の取得から除却までの情報を管理し、関係部署から必要な情報を集める |
| レベル3 | 設備投資額や減価償却費の増減を分析し、予算との差異を説明する |
| レベル4 | 大型投資や設備改修について、会計処理や業務フローを検討する |
| レベル5 | 固定資産管理全体のルールや業務体制を整備し、投資管理や経営管理との連携を進める |
開示業務の場合
| レベル | 開示業務での仕事 |
| レベル1 | 決められた資料への数値入力やデータ更新を行う |
| レベル2 | 担当する開示資料を期限内に完成させ、必要な確認を行う |
| レベル3 | 前年同期との比較や数値の変動を分析し、記載内容との整合性を確認する |
| レベル4 | 新しい開示項目や非定型の開示論点について、関係部署や監査法人と協議する |
| レベル5 | 決算開示全体のスケジュールや品質を管理し、経営陣や関係部署を含めた全体調整を行う |
3つの業務に共通しているのは、レベルが上がるにつれて、役割が「個別の処理」から「担当業務の一貫した遂行」、「数字の分析」、「判断と改善」、「組織全体の統括」へ広がることです。
ただし、すべての業務で同じレベルまで経験する必要があるわけではありません。連結決算を専門的に深める人もいれば、固定資産管理や開示の経験を組み合わせて、より広い経理業務を担う人もいます。
仕事の深さをキャリアにどう活かすか
すべての経理担当者がレベル5を目指す必要はありません。
経理のキャリアには、特定の専門領域を深く追求する方向と、複数の領域を経験して管理・経営に近づいていく方向があります。
専門領域を深くする
例えば、次のようなキャリアです。
連結決算 → 開示 → IFRS → 高度な会計論点
この場合、連結決算や開示の実務を深めながら、会計基準や非定型取引への対応力を高めていきます。
経理から管理・経営へ広げる
もう一つは、経理の専門性を土台に、周辺領域へ仕事を広げる方法です。
決算 → 管理会計 → FP&A → 経営企画 → CFO
この方向では、会計処理に加えて、予算、予実分析、事業計画、経営管理、意思決定支援などの経験が重要になります。
複数の専門性を組み合わせる
一つの業務を深く掘り下げるだけでなく、複数の領域を組み合わせる方法もあります。
- 連結決算+開示
- 決算+業務改善
- 経理+管理会計
- 会計+システム
- 経理+マネジメント
- 経理+海外子会社管理
どの経験が評価されるかは、企業や求人によって異なります。
そのため、「特定の業務を経験すれば必ず評価される」と考えるのではなく、自分が希望する仕事で求められる経験と、現在の担当範囲を照らし合わせることが重要です。
仕事の深さを増やすために今の仕事でできること
仕事の深さは、異動や転職をしなければ高められないわけではありません。
現在の担当業務でも、次のように少しずつ役割を広げられます。
レベル1からレベル2へ
- 自分の担当業務の前後工程を確認する
- 必要な資料や締切を自分で管理する
- 不明点を整理して関係者へ確認する
- 担当業務を最初から最後まで説明できるようにする
レベル2からレベル3へ
- 前月、前年、予算との差異を確認する
- 数字が変動した理由を事業部門へ確認する
- 数字と事業活動の関係を理解する
- 分析結果を文章や口頭で説明する
レベル3からレベル4へ
- 新規取引や非定型案件に関わる
- 会計基準と実際の契約内容を照らし合わせる
- 手作業や重複チェックを見直す
- 業務改善の効果を、時間・品質・統制の面から検討する
レベル4からレベル5へ
- チームの進捗や業務分担を管理する
- 後輩の成果物をレビューする
- 業務手順を標準化する
- 他部署や監査法人との調整を担う
- メンバーが安定して業務を進められる体制を作る
このように、仕事の深さは「新しい業務名を増やすこと」だけでなく、現在の業務に対する関わり方を変えることでも高められます。
経理の仕事の「深さ」に関するQ&A
経理は何年経験すれば一人前ですか?
経験年数だけで判断することはできません。
担当業務を一人で完結できるか、数字を分析できるか、非定型の課題に対応できるか、関係者と調整できるかなど、実際に担ってきた仕事の内容を見る必要があります。
経理経験5年なのに、転職で評価されにくいことはありますか?
可能性はあります。
5年間の経験があっても、定型業務の一部だけを担当している場合と、決算全体、分析、改善、非定型案件、マネジメントまで経験している場合では、身につく能力や説明できる経験が異なります。
ただし、どの経験が評価されるかは、応募する企業やポジションによって変わります。
経験年数だけで判断するのではなく、希望する仕事で求められる経験と、自分が実際に担当してきた範囲を照らし合わせることが重要です。
「月次決算経験」はどこまでできれば評価されますか?
仕訳入力だけなのか、担当科目の締めまでなのか、決算全体の進行管理までなのかによって、経験の内容は変わります。
差異分析、原因の確認、関係部署との調整、上司への報告まで担っている場合は、単なる入力作業とは異なる経験として説明できます。
ただし、どこまでの経験が評価されるかは、求人の内容や企業の採用基準によって異なります。
連結決算経験は転職で評価されますか?
連結決算は専門知識が必要となる業務の一つですが、「連結経験がある」というだけでは仕事内容を判断できません。
データ入力を担当していたのか、担当子会社の連結処理を一通り行っていたのか、連結仕訳や資本連結などの論点を検討していたのか、決算全体を管理していたのかによって経験の内容は異なります。
応募先がどのような連結経験を求めているかを確認し、自分が担当してきた範囲を具体的に伝えることが重要です。
経理の専門性を高めるには何を経験すればいいですか?
まずは担当業務を一人で完結できる状態を目指し、その後に分析、非定型案件、業務改善、周辺領域へと経験を広げる方法があります。
専門領域を深める場合は、連結、開示、税務、IFRSなど、特定分野の知識と実務経験を積む方法があります。
どの領域を深めるかは、自分が将来どのような仕事をしたいのか、どのような求人を目指すのかによって考えるとよいでしょう。
管理職を目指すなら何を経験すべきですか?
自分の担当業務だけでなく、業務分担、進捗管理、レビュー、教育、他部署との調整など、チーム全体を動かす経験が重要になります。
「自分が仕事をできる」ことから、「他のメンバーが仕事を進められる状態を作る」ことへの転換が、管理職に向けた大きなステップです。
まとめ|経理の仕事は「何を経験したか」だけでなく「どこまで担ったか」で変わる
経理の仕事の深さは、次の5段階で整理できます。
| レベル | 仕事の深さ | 求められる力 |
| レベル1 | 処理する | 決められた業務を正確に処理する力 |
| レベル2 | 担当する | 担当領域を一貫して担う力 |
| レベル3 | 分析する | 数字を分析し、事業の状況と結びつけて説明する力 |
| レベル4 | 判断・改善する | 非定型の会計論点に対応し、業務を改善する力 |
| レベル5 | 組織を動かす | チームや経理部門全体を動かす力 |
同じ「月次決算」「連結決算」「固定資産管理」「開示業務」でも、どこまで担ったかによって、仕事内容や求められる能力は変わります。
重要なのは、必ずレベル5を目指すことではありません。
専門領域を深く追求するのか、管理会計や経営企画など周辺領域へ広げるのか、自分が目指すキャリアによって必要な経験は変わります。
現在の担当業務についても、処理だけで終わらせず、担当業務の一貫した遂行、差異分析、非定型案件、業務改善、チーム管理へと関わる範囲を広げられます。
経理のキャリアを考えるときは、経験年数や業務名だけではなく、「自分はその仕事をどこまで担ってきたのか」「次にどの役割を担いたいのか」という視点を持つことが大切です。
