経理部長は、経理部門の業務を管理するだけでなく、経営層と連携しながら会社の経営を支える役割を担います。
経理担当者やリーダー、マネージャーまでは専門的な経理業務やチーム運営が中心ですが、経理部長になると、部門全体の組織運営や人材育成、業務改善、経営層への報告・提案など、仕事の範囲が大きく広がります。
では、経理部長になるには、どのような経験やスキルを身につければよいのでしょうか。
この記事では、経理部長の仕事内容から必要なスキル、経験しておきたい仕事、キャリアパターンまで解説します。
経理部長とは?経理マネージャーとの違い
経理部長は、経理部門全体を統括する立場です。
経理マネージャーもチームや部門の業務を管理しますが、経理部長になると、個々の業務管理だけでなく、経理部門全体の方向性を決め、経営層と連携しながら組織を動かす役割が大きくなります。
経理マネージャーは「組織を動かす」役割
経理マネージャーは、メンバーの業務分担や進捗管理、成果物のレビュー、人材育成、業務改善などを担当します。
自分自身が経理業務を行うだけではなく、メンバーに仕事を任せながら、チームとして成果を出すことが求められます。
つまり、担当者が「自分の仕事を完遂する」立場だとすれば、マネージャーは「チームとして成果を出す」立場です。
経理部長は「経理部門を統括する」役割
経理部長は、マネージャーの上位で経理部門全体を統括します。
決算や開示などの業務だけでなく、経理組織の体制、人材、業務プロセス、内部統制、システム、他部署との連携などを含めて部門全体を考えます。
また、経営層に対して会計・財務情報を報告するだけでなく、経理部門から見た経営課題を伝えたり、対応策を提案したりすることも重要です。
「部門を管理する」から「経営に貢献する」へ
経理部長になると、正確な会計情報を作ることだけが目的ではなくなります。
経理が持っている数字や情報を経営判断につなげ、会社全体の意思決定を支えることが重要になります。
そのため、経理の専門知識に加えて、事業や経営に対する理解も求められます。
経理部長の仕事内容
経理部長の仕事内容は会社によって異なりますが、部門全体を統括するという点は共通しています。
| 役割 | 主な仕事内容 |
| 部門方針・目標の設定 | 経理部門として達成すべき目標や優先課題を決める |
| 決算・開示・税務の統括 | 月次・四半期・年次決算や開示、税務などの品質・進捗を管理する |
| 組織・人員管理 | 人員配置、業務分担、採用、人材育成などを行う |
| 品質・リスク管理 | 会計処理の正確性、内部統制、決算上のリスクなどを管理する |
| 業務改善・システム化 | 経理業務の効率化や標準化、システム導入を推進する |
| 経営層への報告・提案 | 会計・財務情報を整理し、経営判断に必要な情報を報告・提案する |
| 社外関係者との対応 | 監査法人、税理士、金融機関、株主などとの調整を行う |
会社規模や上場・非上場によって担当範囲は変わります。
特に上場企業では、決算や開示、監査対応、内部統制などの重要性が高くなります。一方で、成長企業では、経理体制の構築や業務改善、IPO準備などが重要になる場合もあります。
経理部長になると仕事の視点はどう変わる?
経理部長になると、個別の経理業務を見るだけではなく、部門全体や会社全体を見る必要があります。
「経理業務」から「経理部門全体」へ
担当者は、自分に割り当てられた業務を正確に処理することが中心です。
マネージャーになるとチーム全体を管理するようになり、部長になると経理部門全体の状態を把握する必要があります。
「誰が何を担当しているか」だけでなく、「この組織で継続的に決算を回せるか」「特定の社員に業務が集中していないか」といった視点が重要になります。
「業務を正しく行う」から「経理組織を強くする」へ
経理部長には、現在の業務を問題なく回すだけでなく、将来も安定して業務を続けられる状態をつくることが求められます。
たとえば、属人化している業務を標準化したり、マニュアルを整備したり、業務システムを見直したりすることも重要な仕事です。
「問題に対応する」から「経営課題を先回りする」へ
経理部長には、問題が発生してから対応するだけでなく、将来的に発生する可能性のある問題を予測する視点も必要です。
決算体制、人員不足、会計処理、システム、内部統制などについて、今後どのようなリスクが生じるのかを考え、早めに対策を進めます。
「会計情報を作る」から「経営判断を支える」へ
経理が作成する数字は、それ自体が目的ではありません。
経営層が事業の状況を理解し、投資や事業計画、人員配置などを判断するための情報として活用できる状態にすることが重要です。
そのため、経理部長には管理会計や予実管理、財務分析などの知識も求められます。
「自社の経理」から「会社全体」へ
経理部長は、経理部門だけを見ていては十分な判断ができません。
営業、購買、製造、人事、ITなど、他部署の業務が会計数値にどのようにつながっているのかを理解する必要があります。
経理の視点から会社全体を見ることで、数字の変化の背景を理解し、経営に役立つ情報を提供できるようになります。
経理部長に必要な7つのスキル
経理部長には、経理の専門性だけでなく、組織を動かす力や経営を理解する力も必要です。
| スキル | 求められる内容 |
| 経理・会計の専門知識 | 決算、連結、税務、開示、会計基準などを理解し、適切な判断につなげる |
| 組織マネジメント | 部門の目標設定、人員配置、業務分担、進捗管理などを行う |
| 人材育成・後継者育成 | メンバーを育成し、将来の管理職候補も含めた人材層をつくる |
| 業務設計・業務改善 | 業務プロセスを見直し、効率化・標準化・システム化を進める |
| 経営層への報告・提案力 | 数字を経営判断に必要な情報へ整理し、課題や対応策を伝える |
| 他部署・社外関係者との調整力 | 営業・人事・ITなどの社内部門や監査法人などと調整する |
| 事業・経営を理解する力 | 会社の事業構造や収益モデル、経営課題を理解する |
経理部長を目指す場合、「経理専門性 × マネジメント × 事業理解」の3つを意識して経験を広げることが重要です。
経理部長に求められる経営層とのコミュニケーション
経理部長と経理マネージャーの大きな違いの一つが、経営層とのコミュニケーションです。
経営層に対して単に数字を報告するだけでは、経理部門の役割を十分に果たしているとはいえません。
経営層が求めている情報を理解する
経営層が知りたいのは、必ずしも会計処理の詳細ではありません。
「なぜ数字が変化したのか」「今後どうなるのか」「会社として何を判断すべきなのか」といった情報が重要になります。
そのため、報告する相手がどのような意思決定をしようとしているのかを理解してから、必要な情報を整理します。
数字だけでなく「意味」を伝える
例えば売上高が減少した場合、単に「前年同期比で○%減少しました」と報告するだけでは不十分なことがあります。
販売数量、単価、商品構成、地域、顧客などの要因を分析し、「なぜ減少したのか」まで説明することで、経営判断に役立つ情報になります。
問題だけでなく対応策まで提案する
経理部長には、問題を発見して報告するだけでなく、対応策を考えることも求められます。
例えば決算早期化が課題であれば、単に「決算が遅れている」と伝えるのではなく、遅延している工程や原因を整理し、業務分担やシステム、締切日の見直しなど具体的な改善策を提示します。
経理部門から見た経営課題を伝える
経理部門は会社全体の数字を見る立場にあります。
そのため、各部署だけでは把握しにくいコスト構造や利益率、資金、投資効果などについて、経理の視点から経営課題を指摘できることがあります。
経理部長には、こうした情報を経営層に伝える役割もあります。
経営層との認識を合わせる
経理部門が正しい数字を作っていても、経営層と問題意識が共有されていなければ、改善につながりません。
経理部長は、数字の背景やリスク、今後必要となる対応について説明し、経営層と認識を合わせながら部門を動かしていきます。
経理部長になるために経験しておきたいこと
経理部長を目指す場合、単に経理経験の年数を増やすのではなく、部門を統括するための経験を意識して増やすことが重要です。
| 経験 | 身につく力 |
| 決算・開示業務の取りまとめ | 業務全体を管理する力、品質管理能力 |
| 経理部門の組織運営 | 人員配置、業務分担、進捗管理などのマネジメント力 |
| 業務改善・システム導入 | 課題発見、プロジェクト推進、業務設計の力 |
| 経営層への報告・提案 | 経営視点、情報整理力、プレゼンテーション力 |
| 予算・予実管理、管理会計 | 数字を経営判断につなげる力 |
| 監査法人・税理士・金融機関との対応 | 社外関係者との調整力 |
| 他部署を巻き込むプロジェクト | 部門横断で仕事を進める力 |
| 経理以外の業務・部門への理解 | 会社全体を見る力 |
特に重要なのは、「自分が担当する」経験から「人に任せて、全体を管理する」経験へ広げることです。
経理部長になるには?3つのキャリアパターン
経理部長になるルートは一つではありません。
社内でマネージャーから昇格する
現在の会社で経理マネージャーとして経験を積み、その後に部長へ昇格するルートです。
会社の事業や組織を理解した状態で管理職としての経験を積めることがメリットです。
一方で、会社の組織構造によってはポストが空かず、昇格まで時間がかかるケースもあります。
経理部長候補として転職する
経理マネージャーなどの経験を生かして、経理部長候補や経理責任者候補として転職する方法です。
特に、組織拡大や管理部門の強化を進めている企業では、これまでのマネジメント経験を活かせる可能性があります。
求人を見る際は、「部長候補」という名称だけで判断せず、実際の権限や担当範囲、組織構成を確認することが重要です。
専門性を高めて経理部門を統括する
連結決算、開示、税務、管理会計、IFRSなど特定分野の専門性を高め、その経験を生かして経理部門を統括するキャリアもあります。
ただし、経理部長になるには専門性だけでなく、組織運営や人材育成、経営層とのコミュニケーションも必要になります。
専門領域を深めながら、マネジメント経験も並行して積むことが重要です。
経理部長を目指すなら今の仕事で何をする?
現在まだ経理部長ではない場合でも、日々の仕事の中で部長に必要な経験を作ることができます。
自分の担当業務だけでなく部門全体を見る
自分の担当範囲だけを見るのではなく、経理部門全体の業務フローを把握します。
決算、債権、債務、固定資産、税務、連結、開示など、それぞれの業務がどのようにつながっているのかを理解すると、部門全体を管理する視点が身につきます。
メンバーではなく「管理職を育てる」視点を持つ
経理部長になると、自分がすべてのメンバーを直接管理するとは限りません。
将来的にリーダーやマネージャーとしてチームを任せられる人材を育てることも重要です。
「自分が教える」だけでなく、「この人が次に誰かを育成できる状態をつくる」という視点を持つと、より上位のマネジメントにつながります。
業務改善を部門全体の課題として考える
自分の担当業務を効率化するだけでなく、経理部門全体の業務プロセスに目を向けます。
例えば、担当者によって処理方法が異なる業務や、複数の部署で同じ情報を入力している業務などを見つけ、標準化やシステム化を検討します。
経営層への報告に「提案」を加える
上司や経営層に数字を報告する機会があるなら、数字だけで終わらせないことが重要です。
「何が起きているのか」に加えて、「なぜ起きているのか」「どう対応すべきか」まで考えて報告することで、経営視点を身につけやすくなります。
経理以外の部門の数字を見る
営業部門の売上や利益、人事部門の人件費、購買部門の仕入コストなど、経理以外の部門が扱う数字にも目を向けます。
数字の背景にある業務を理解すると、会計情報と事業活動を結びつけて考えられるようになります。
会社の事業構造を理解する
経理部長は、経理だけを理解していれば務まるポジションではありません。
「会社は何を売っているのか」「どの事業で利益を生み出しているのか」「どのようなコストが発生するのか」といった事業構造を理解することが重要です。
経営課題と経理業務を結びつける
例えば、利益率の低下が経営課題になっている場合、経理としてどのような分析ができるのかを考えます。
経理業務を会社の経営課題と結びつけて考える習慣が、経理部長としての視点につながります。
経理部長になる準備ができたか確認するには?
経理部長を目指す場合、「何年経理を経験したか」だけで準備状況を判断する必要はありません。
これまでにどのような仕事を経験し、どこまで責任範囲を広げてきたかを確認することが重要です。
| 確認する経験 | 部長候補として考えるポイント |
| 経理の主要業務 | 決算、税務、連結、開示など主要業務の全体像を理解している |
| チーム・部門の管理 | 業務分担、進捗管理、メンバー育成などを経験している |
| 決算・開示の取りまとめ | 自分の担当だけでなく、全体の品質やスケジュールを管理できる |
| 業務改善 | 課題を発見し、関係者を巻き込みながら改善を実行できる |
| 経営層への報告・提案 | 数字の報告だけでなく、背景や課題、対応策を説明できる |
| 他部署との調整 | 経理以外の部署と協力して課題を解決できる |
| 事業・経営への理解 | 会計情報を事業や経営課題と結びつけて考えられる |
すべてを完璧に経験している必要はありません。
ただし、「専門業務ができる」だけではなく、「人を動かす」「部門を管理する」「経営層と会話する」「会社全体を見る」といった経験が増えているかを確認すると、自分が次の役職に進む準備ができているか判断しやすくなります。
経理部長への転職で評価されやすい経験
経理部長や部長候補として転職する場合、単純な経理経験年数よりも、どの程度の範囲を担当してきたかが重要になります。
| 経験 | アピールするポイント |
| 経理部門のマネジメント | 部下の人数だけでなく、業務分担や育成、組織運営の実績 |
| 決算・開示の統括 | 担当範囲、決算規模、上場企業での経験など |
| 業務改善・システム導入 | 課題、実施内容、改善効果を具体的に説明する |
| 経営層への報告・提案 | どのような情報を整理し、どのような意思決定を支援したか |
| 管理会計・予実管理 | 分析結果をどのように経営や事業運営に活用したか |
| 社外関係者との折衝 | 監査法人、税理士、金融機関などとの対応範囲 |
| 部門横断プロジェクト | 関係部署を巻き込み、どのような成果を出したか |
特に転職では、「経験したこと」だけでなく「その経験によって何を変えたのか」まで整理しておくと、自分の役割や責任範囲を伝えやすくなります。
経理部長から目指せるキャリア
経理部長になった後も、経理領域で専門性を高めるだけでなく、経営に近いポジションへキャリアを広げることができます。
経理部門の責任者として専門性を高める
経理部門の責任者として、決算・開示・税務・財務などの領域をさらに統括し、より大きな組織や企業で経理責任者を目指すキャリアです。
管理部長・管理本部長を目指す
経理だけでなく、人事、総務、法務、ITなど管理部門全体を統括するポジションを目指すこともできます。
経理以外の管理部門への理解を広げておくと、こうしたキャリアにつながる可能性があります。
CFOを目指す
経理部長からCFOを目指すキャリアもあります。
CFOには、経理・財務の専門性だけでなく、経営戦略、資金調達、M&A、事業計画、IRなど、より広い領域の経験が求められる場合があります。
経理部長として経営層とのコミュニケーションを増やし、管理会計やFP&A、財務、経営企画などへ経験を広げることが、CFOを目指す上での一つのステップになります。
経営企画・FP&Aなど経営に近い領域へ広げる
経理で培った会計・財務の知識を生かして、経営企画やFP&Aなどに領域を広げる方法もあります。
会計情報を「過去の実績を記録するための数字」だけでなく、「これからの経営判断に使う数字」として扱えるようになると、経営に近い仕事へつながりやすくなります。
経理部長に関するQ&A
経理部長におすすめの資格は?
代表的な資格としては、日商簿記、USCPA、公認会計士などがあります。
ただし、資格だけで経理部長になれるわけではありません。実務経験やマネジメント、経営層とのコミュニケーションなどと組み合わせて考えることが重要です。
経理部長はプレイングマネージャー?
会社によって異なります。
組織規模が小さい企業では、経理部長自身が決算や会計処理を担当することもあります。一方、組織が大きくなるほど、部門運営や経営層との調整に時間を使うケースが増えます。
管理職経験がなくても経理部長を目指せる?
可能性はありますが、部長候補として転職する場合は、何らかのマネジメント経験が評価されることが多くなります。
正式な管理職でなくても、業務分担、後輩育成、プロジェクト管理、成果物のレビューなど、周囲を動かした経験を整理しておくとよいでしょう。
経理部長への転職で何をアピールすればいい?
「何年経理を経験したか」だけでなく、どの範囲を担当し、どのような組織や課題を動かしてきたかを伝えることが重要です。
特に、マネジメント、決算・開示の統括、業務改善、経営層への報告・提案などは、部長候補としての役割との関連性を説明しやすい経験です。
経理部長とCFOの違いは?
経理部長は主に経理部門を統括する立場で、CFOはより広い視点から財務・経営戦略を担う立場です。
ただし、企業によって役割や権限は大きく異なります。経理部長が財務や経営企画まで担当している企業もあれば、CFOが経理・財務・経営企画などを幅広く管掌している企業もあります。
まとめ|経理部長になるには「経理」から「経営」へ視点を広げる
経理部長になると、経理の専門業務だけでなく、部門全体の組織運営や人材育成、業務改善、経営層とのコミュニケーションまで仕事の範囲が広がります。
キャリアの段階を整理すると、次のように考えることができます。
| キャリア | 主な視点 |
| 経理担当者 | 自分の仕事を正確に完遂する |
| 経理リーダー | チームとして成果を出す |
| 経理マネージャー | 組織として成果を出せる状態をつくる |
| 経理部長 | 経理部門を統括し、経営を支える |
経理部長を目指すなら、専門性を高めるだけでなく、人を動かし、組織を改善し、経営層と共通認識をつくる経験を増やすことが重要です。
「経理の仕事ができる」から「経理組織を動かせる」へ、そして「経理から経営を支えられる」へ視点を広げていくことが、経理部長へのキャリアにつながります。